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KRコミックス1巻発売日のPOSデータと2巻乙の関係の調査

1. はじめに

まんがタイムきらら系列において,単行本の売り上げは続刊の有無に大きく影響していることが明言されている*1.一般の書店では本の売り上げデータはPOSシステムにより管理されており,多くの一般書店ではPOSのデータを基にして本の納入を決めているほか,出版社においても活用されている*2.正確にはPOSシステムのデータは販売された書籍のデータをすべて含んでいるわけではないが,芳文社にとって貴重なデータになっているのは間違いないだろう.

一方まんがタイムきらら系列では多くの作品が2巻をもって完結することから*3,2巻を超えることができるかどうかは多くのきらら読者の注目点の一つである.このためまんがタイムきらら系列の漫画を愛好する者たちからは漫画が2巻で終了することは2巻乙と呼ばれ,恐怖の対象となったり愛好家が出たりしている.

従来2巻乙を判別するシグナルとして用いられてきたのが掲載誌における掲載順である.例えば調べ屋氏は2巻乙作品とそれ以外の作品の掲載順の統計解析から算出した判定式を用い,各誌で85%以上の的中率で判定を可能にした*4.しかし連載順は他の連載作品の事情や編集部の方針にも左右されるため,必ずしも万能の指標ではない.そして単行本売り上げと2巻乙との関係性を直接考察した研究は,私の知る限りではいまだ存在していない.

本研究ではPOSデータとKRコミックスの続刊状況との関連性を調査し,売り上げと2巻乙の関係を明らかにする.

2. データと手法

2.1. 「2巻乙」の定義について

今回の調査にあたり,2巻乙の定義について調査した.このうち,Ram助氏がまとめている「2巻乙ノススメ @ まんがタイムきらら*5においては,2巻分で連載を終了した作品のみを2巻乙と定義し,1巻発売後に無期休載などにより2巻が出なかった作品,および2巻が出た後も掲載が続行したものの3巻が出なかった作品と明確に区別していた.またニコニコ大百科の2巻乙の記事*6においても,「1.5巻乙」として1巻発売後に無期休載などにより2巻が出なかった作品を紹介し,2巻乙と区別していた.一方で2巻が出た後も掲載が続行したものの3巻が出なかった作品についての言及はなかった.

本研究では,単行本3巻が出なかった作品についてすべて2巻乙として扱う.その理由は,今回調査する作品はすべて「第1巻」と付いた作品で2巻以降を出す予定があったと思われること,仮に2巻または3巻を出せなかった場合でもその理由が売り上げと関係している可能性があること,そしてRam助氏の「2巻乙ノススメ @ まんがタイムきらら」における2.5巻乙の作品*7の1巻発売がすべて今回の調査の範囲外の期間に行われていることの3つである.

なお連載中の作品については2巻が発売されたうえで現在も連載を継続している場合,2巻突破という扱いを行った.同様に単行本2巻が未発売であるものの2巻で完結することが確定している作品については2巻乙として扱った.前者は「けいおん!Shuffle」,「しあわせ鳥見んぐ」,「瑠東さんには敵いません!」,「またぞろ。」,「ばっどがーる」の5作品,後者は「ゆらめきラグーン」と「ポンポコタヌキとへっぽこ王子」の2作品が該当する.また休載中の作品については本項目執筆時のまんがタイムきららまんがタイムきららMAXまんがタイムきららキャラットの最新号(いずれも2023年5月号)で休載の旨が記載されている作品については現行の連載作品として扱い,それ以外は連載を終了しているものとして扱った.これは1巻発売後に実質的に連載終了した作品の判別のためである.

2.2. 調査したタイトル

今回調査したのは,まんがタイムKRコミックスのうち,2013年6月1日から2022年6月30日までに発売された「第1巻」と銘打たれた4コマ作品計174作である.まんがタイムKRコミックスフォワードシリーズに属する作品や,「第1巻」と銘打たれていない最初から単巻で完結する予定の作品は今回の調査の対象外である.第1巻の作品の一覧は,まんがタイムきららWebの既刊一覧*8をもとにした.調査期間は後述するPOSデータが閲覧できる範囲で,かつ2巻で完結するかどうかが連載中の作品が3巻を出さないまま終了する場合を除き確定しているように選択した.

ただし,以下の作品は含まない.

魔法少女まどかマギカ関連の作品はまんがタイムきららの4コマ誌での掲載がなかったため,「平成生まれ2」は登場人物・舞台設定を「平成生まれ」から引き継いだ実質的な続編であるため,それぞれ集計から除外した.

2.3.用いたデータ

今回使用したPOSデータはWebサイト「漫画・マンガ・コミック 売上ランキングBEST500」*9の,単行本発売日の日測データである.このサイトのデータはTSUTAYA未来屋書店をはじめとする全国約2650店で集計されたPOSデータである.ただし電子書籍の売り上げデータが含まれていないことは勿論,アニメイトゲーマーズといった漫画専門店やamazon楽天といったネット書店のデータが含まれないことに注意が必要である*10.特にまんがタイムKRコミックスアニメイトゲーマーズでよい特典を付けて販売したり,メロンブックス限定の特別版を販売したりすることが度々あるため,このPOSデータと実際の販売数が乖離している可能性があることに注意が必要である.

3. 結果

3.1. POSデータと2巻乙の対応

表1 1巻発売日のPOS上位500位に入った作品とそれ以外の作品の2凸率
表1は期間内に発売された全作品の2巻乙と2巻凸の作品数と,2巻を突破し3巻を発売できた作品の割合(以下2凸率)を示すものである.上段は発売日のPOSランキングの上位500にランクインした作品の数,下段はランクインしなかった作品の数である.2巻を超えて3巻を発売できた作品は全174作中48作品であり,狭き門であることがわかる.また発売日のPOSランキング上位500位に入った作品は全体の59%で,入れなかった作品と比べ20%以上突破率が高いことが分かった.

表2 1巻発売日のPOS順位の内訳
表2は表1のうち,ランキングに入った作品について,さらにその順位を100位ごとに分類したのちに各順位帯の2凸率を示したものである.比較としてランキング圏外の作品の集計も記載した.この表から,1巻の時点で発売日のPOSが上位100位以内に入っている作品は8割以上の確率で2巻凸可能であるとわかった.この順位帯に属する作品の中で2巻乙したのは2013年6月に第1巻が発売された「P.S.リスタート」1作のみで,他は「New Game!」,「ブレンド・S」,「うらら迷路帖」などの人気作ばかりである.また101位~200位の順位帯の作品も2巻凸の確率が72%と,500位以内の作品全体の2巻凸割合と比べて30%以上高く突破している.一方で301位~500位までに属する作品の2巻凸確率は20%で,500位以内の作品全体の2巻凸割合と比べて半分程度である.しかしそれでもランキング圏外の作品の2凸率と比べれば2倍近くあるほか,「恋する小惑星」といったアニメ化まで至れた名作もこの順位帯に属しているため,初動で相対的に売れていなくとものちに人気を獲得して長期連載をかなえることも可能であるといえる.

なおランキング圏外の作品のうち3巻以降を刊行出来た作品は8作品であるが,これについては後述する近年のPOS入りする作品の数の変化が関連していると思われるため,次節にて詳しく取り扱う.

3.2. 2019年以前と2020年以降のPOSランキング入りの傾向の変化

表3 2014年から2021年までの発売された第1巻のうち,発売初日にPOSランキング上位500位にランクインできた作品の割合(単位:%)
表3は2014年から2021年までに発売された第1巻のうち,発売初日にPOSランキング上位500位にランクインできた作品の割合を隔年ごとに示したものである.2013年及び2022年は1年全体のデータが入っていないため今回の集計からは省いた.ランクインした割合は2019年までは2016年が最も割合が低かったが,それでも全体の半分以上は上位500位にランクインできていた.しかし2020年にその割合が15%に低下し,2021年も13%と回復しなかった.これはコロナ禍による購買傾向の変化が関係している可能性がある.

表4 2013年6月から2019年12月までに発売された第1巻の,発売日のPOS上位500位に入った作品とそれ以外の作品の2凸率
ここからは傾向が変わった2019年以前と2020年以降についてそれぞれ,POS上位500位に入った作品とそれ以外の作品の2凸率を見ていく.表4は2013年6月から2019年12月までに発売された第1巻の,発売日のPOS上位500位に入った作品とそれ以外の作品の2凸率を示した.初日にPOS上位500位にランクインした作品の割合は72%になり,2022年6月まで含めた全体と比べて13%高い数値になっている一方,2巻突破率は37%で大きく変わらなかった.また初日に上位500位に入れなかった作品で2巻突破した作品は,「ステラのまほう」と「アニマエール!」の2作品のみだった.「ステラのまほう」が本来2巻で終わるはずだったという証言*11を加味すると,2019年以前については初日にPOS上位500位に入れなかった作品はアニメ化が決定されない限り3巻以降が出せなかった可能性がある.

表5 2020年1月から2022年6月までに発売された第1巻の,発売日のPOS上位500位に入った作品とそれ以外の作品の2凸率
表5は2020年1月から2022年6月までに発売された第1巻についての同様の表である.まず,発売日のPOS上位500位に入った作品は5作品であり,この期間に発売された第1巻のわずか13%であった.この影響なのかPOS上位500位に入った作品の2巻突破率は80%に上昇しており,また入らなかった作品も6作品2巻を突破している.

POS上位500位に入れなかった作品の2巻突破率が向上したのは,電子書籍版の売り上げが以前より反映されやすくなったためである可能性がある.POS上位500位のランキング外で2巻突破した作品の一つが「ななどなどなど」であるが,続刊について著者の宇崎うそ氏が電子書籍版の売り上げが影響したことを明言している*12.ただしランキング外で2巻突破した作品はすべて連載中のため,突破要因がアニメ化なのか電子書籍の売り上げなのかは現状不透明である.

4. まとめ・考察

本研究ではPOSデータと2巻乙の関連性を調査した.初日のPOS上位500位に入っていなかった作品は入った作品と比べ,2巻突破率が著しく低かった一方,POSランキング入りしていても半数以上の作品が2巻乙することが明らかになった.また2020年以降は2019年以前と比べてランキング入りしている作品の割合が大きく低下し,その分ランキング外の作品が多く続刊する傾向があることが分かった.

2巻以降の続刊が未定な作品の中で,初日のPOS上位500位に入った作品は「蜂も刺さずばうたれまい」,「コンビニ夜勤のあくまちゃん」,「ササエルの中には誰もいない」の3作である.このうち「コンビニ夜勤のあくまちゃん」は272位と2020年以降に発売された作品で4番目に高い順位だったため,3巻以降の続刊の期待値は高いと言える.一方でほか2作品は両者とも400位台でのランキング入りであるが,そもそもランキング入りしている作品自体の数が減少しているため傾向の変化を知る上でもこの2作の動向には注目したい.

一方で3.2節でアニメ化による連載続行の可能性について触れたが,本研究では1巻の売り上げのランキングのみを扱っているため2巻以降の売り上げの事情を踏まえた考察を行えていない.これを行うためには,2巻以降の売り上げの変化をアニメ化作品・非アニメ化作品とで比較検討する必要があると考えている.

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